国際交流参考情報 (新型コロナウイルス・パンデミックにおける英国の例を元に)      | JCSOS 海外留学生安全対策協議会|教職員向け

ゲスト様

危機管理コラム

国際交流参考情報 (新型コロナウイルス・パンデミックにおける英国の例を元に)     

新型コロナウイルスのパンデミックは世界的な危機であり、各国が感染拡大防止と終息を目指して対策を講じています。クライシス・コンテインメントとしての危機管理において講じる対策は、有効なものから効果に疑問のあるものまで、緊急時であるがゆえに発生します。当初の見通しや対策が適切でなかった場合には、次の対策が重要になります。海外危機管理情報でも各国の対策と状況をお伝えしておりますが、その中で、当初の見通しを誤った後に、適切な対策で効果を上げている例として英国の事例を紹介します。危機管理の参考としていただければ幸いです。

1.英国におけるワクチン戦略とワクチン接種状況
当初(20203月初旬)新型コロナに対する取り組みは積極的ではなかった英国だが、同年秋以降に新規感染者数の急増が始まり、年明け後の本年(2021年)1月上旬のピーク時には1日当たりの新規感染者数が68,000人に達した。ジョンソン首相は20211月4日夜のテレビ演説で、新型コロナウイルスの感染拡大により、国民の8割強が暮らすイングランド地方全域で都市封鎖(ロックダウン)を直ちに導入すると発表した。従来型よりも感染力が強い変異種の流行に歯止めがかからず、昨年3月と11月に続いて3回目の全域の封鎖を決めた。この状況を変えたのがワクチン戦略であった。以下、その概要である。

1)英国のワクチン戦略
① 製薬会社との契約内容は、EUと英国と、ほぼ同様の内容であったが、英国の契約書には納入実現までの詳細な決めがあり、違反した場合には製薬会社が責任を負うことになっていた。このためアストラゼネカがEUへの納品数は契約した3億回の1/31億回で終わり、英国へは供給を継続していた。また、EU離脱の結果、自国のことのみを考えることができる、ブレグジットの数少ないメリットが奏功した。

2)ワクチンを少なくとも1回接種した人の割合
NHK 世界のワクチン接種状況2021524日更新より
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/world_progress/

この数値は、少数の人が2回接種し十分な免疫を獲得するよりも、ある程度の免疫をできるだけ多くの国民が早く獲得する方が社会全体の感染リスクを低減できると考え、1回の接種を優先する方針から実施されている。

3)迅速なワクチン接種実現の背景
英国は、ワクチン調達の策だけでなく、中央集権化されたワクチンの国内配布を可能とする体制が生きた。その体制とは、平時にサービスの面で何かと批判の多いNHSであった。一元化された情報共有システムが、ワクチン配布に威力を発揮し、変異株の研究にも有効であった。またワクチン接種のための医師、看護師の不足を補うために、医師資格を問わず、大量接種のため一般人を接種ボランティアとして募集し、研修を実施して接種を実現させたという。

4)ワクチン接種推進の結果
NHK 新型コロナウイルス 世界の感染者数 イギリスより。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/

ジョンソン首相は今年の222日、ロックダウンの緩和行程について発表し、全ての段階における判断は「日付ではなくデータ」に基づいて決定していくと議員に説明した。
その後、38日および329日の第1段階、412日の第2段階、517日の第3段階とここまで順調に緩和が進んでいる。最後の第4段階は621日に始まる予定である。

2.英国における感染拡大を抑えるための対応経過
(1)危機の早い段階で、目の前の危機への対応と並行して、最終的な危機収束に必要な対策を進めていた
BBCによれば、政府は20201月の時点ですでに、ワクチンについても話し合っていたという。官邸は4月の時点で、ワクチン開発のため「できることはなんでもする」と決定した。政府の科学顧問やイングランドの医務副主任らがワクチン開発と供給実施の具体策を明確に提示し、これを受けて政治家たちは判断をしたという。できるかどうかもわからない、かつ莫大な費用がかかるワクチン開発に注力するのは、当時はまだ見通しの立たない巨大な賭けだったが、ここでの決断と実行が結果的に功を奏した。

(2)客観的数値・科学的視点に基づく迅速な方向性の決定・柔軟な変更
20201月に最初に英国で感染者が報告された頃は、ジョンソン首相以下、誰も事態を重く見ていなかったようだ。逆に、過剰反応は益より害の方が大きいと、首相は繰り返し警告していたという。英政府内の科学顧問らも、感染拡大ペースを落として事態の悪化を防ぐ時間はまだあると考えていたようだ。
しかし、3月に入り、政府内で感染拡大のペースが予想よりもはるかに早いという懸念が共有されると、それまでの対策計画を大きく変更し、323日に首相は最初のロックダウンを発表した。

(3)想定外の緊急事態への対応が可能な人材をそろえていた
ジョンソン首相は20203月下旬に新型コロナウイルス検査で陽性となり、45日に入院し、一時は危篤状態にあったとされるものの、回復し412日に退院し、しばらく療養した。427日に復帰するまでの間は、ラーブ外相が首相代行を務めていた。この間のラーブ外相率いる内閣運営は比較的評価された。

(4)効果を上げるために必要なことを粛々と遂行した
2020年秋から20211月までは、イギリスは新型コナウイルスの新規感染者数・死者数ともに最も大きなピークを迎えていた。ここで非常に多数の死者を出したが、医療体制の崩壊を防ぐことを重視し、厳しいロックダウンに入った。他方、英国でのワクチン接種は2020128日に開始された。その後、驚異的なペースでワクチン接種が進んでいることは上記の通りである。イギリスは、厳しいロックダウンを行い感染の広がりを抑えたところで、ワクチンを一気に広めるという両輪がそろったことで、結果的に新型コロナウイルスの抑制に持ち込むことができたといえるだろう。

以上、英国の対応について述べました。英国の対応は、当初の見通しの甘さや、昨年秋以降の感染者急増を招いた対応の遅さなど、批判されている部分もあります。しかし、判断のまずさを隠したりごまかしたりするのではなく、誤った判断があった際にはそれを認め、迅速に必要な対策を打つことで、結果的に現状では世界で最も早く状況が改善している国になったといえるでしょう。
パンデミックに関しては、感染拡大防止のための対策を行い、一時的に新規発生を抑えることは有効ですが、終息を求めるためには、集団免疫を持つか、ワクチン接種率を上げるかになります。
英国の策が功を奏した理由を分析しますと、緊急時に対応するため、変化する状況に柔軟な方針変更、政策改定、軌道修正を行う、やり方が生きたといえます。

以上、現在までの英国の状況、という限定で報告申し上げます。

               (文責:JCSOSアドバイザリーボード 酒井 悦嗣)