グローバル教育と危機管理 | JCSOS 海外留学生安全対策協議会

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グローバル教育と危機管理

グローバル教育と危機管理

2013年第二次安倍内閣による日本再興戦略のなかでは、「グローバル化等に対応する人材力の強化」のため、2020年までに日本人留学生を大学生は6万人から12万人へ、高校生は6万人へ倍増させる計画が盛り込まれています。翌2014年には「スーパーグローバル大学創成支援事業」、そして「官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム~」がスタート。グローバル教育への教育機関に期される役割は大きく、大学・学校からの派遣留学・海外研修プログラムはここ数年で飛躍的に増加しました。2018年度の日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、日本の大学から海外へ派遣された学生の数は過去10年間で3倍の伸びを示しています。 一方で海外にて留学生が事故、病気、事件といった不測の事態に遭遇するケースは増えています。学生が留学先での危険を回避するための「備え」、万が一重大事故が発生した場合の的確で迅速な「対応」、派遣留学・海外研修プログラムにおける危機管理は学校の「責任」と「自律」において極めて重要となり、学校トップと教職員が一体となって取り組む必要があります。

危機管理は現在さまざまな分野で使われている概念ですが、共通するのは二つの考え方です。
「リスクマネジメント(危険の回避)」→これから発生するかもしれない危機に対して事前に備えておく
「クライシスマネジメント(危機からの回復)」→発生した危機に対してそこから受けるダメージをなるべく減らす
ここでは、学生の海外派遣に際し学校に求められる危機管理への取り組みを考えていきます。

リスクマネジメントとクライシスマネジメント

海外派遣における安全配慮義務

グローバル教育推進の動きと共に、派遣留学、海外研修プログラムの充実は学生募集の観点からも重要になり、大学経営、学校経営の喫緊の課題の一つとしても挙げられます。これらのプログラムは、研究・教育の一環であり、実施に当たっては、学校に課された自律的な「安全配慮義務」が求められます(※昭和50年最高裁判例)。万が一、事故が発生した場合は、的確で迅速な対応を学長・学校長、該当部局、担当教職員が一体となって行うとともに、日ごろから留学者の安全対策を講じる「結果予見義務」も求められます。
昨今、暴動、自然災害、感染症のパンデミックといった予測の困難な危険は増加しており、これらすべてを事前に排除することはできません。しかし、学校は派遣留学・海外研修プログラムを実施するに当たって、結果予見の可能性を考慮して取り組むことが大切です。結果予見義務、結果回避義務への備えが学校のブランドリスク、経営リスクの軽減と回避に繋がります。

  • 昭和50年最高裁判例
    ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の附随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として「安全配慮義務」が一般的に認められており、安全配慮義務違反があれば債務不履行として損害賠償責任を負います(最高裁昭和50年2月25日第3小法廷判決、民集29巻2号143頁)
櫻井光政(JCSOS-海外留学生安全対策協議会理事)
櫻井光政(弁護士   JCSOS理事)

事故は起きないことに越したことはない。それでも事故は思いもよらぬ時に、思いもよらぬ形で起きてしまうものである。そのときに大学・学校が問われることは、事故を未然に防ぐために最善の注意を払っていたかということである。契約の不履行にせよ、不法行為にせよ、大学・学校の過失は結果予見と結果回避の義務違反の形で問われる。より具体的には、留学先についての事前の調査は十分か、学生に対しては予め必要な注意を行ったか。危険を察知したときに適切な警告を発したか。学生が発しているサインを見落とさなかったか、などが問題になろう。 学生に海外留学を経験させることは意義のあることである。しかし利益は時として負担・リスクを伴うものである。それを最小限にするのが危機管理であり、有効な危機管理のために不可欠なのが契約等の法的対応の整備である。大学・学校におかれてはこの点の対応を十分に行った上で、学生の海外留学を推進されるように願うものである。

海外派遣業務における課題

派遣学生の数、派遣先とプログラムの増加に伴い、学内においては、「人事異動で初めて国際交流に配属されたが前任者との引き継ぎの時間がない」、「人数とプログラムの多様化で業務量が増すばかり」、「学部単位の派遣プログラムが増えて一元的な管理が難しい」といった声を耳にします。そういった中でも学術的に重要とあれば、先進国のみならず、発展途上国や政情が不安定な地域への派遣も増えてきました。多様化する業務の中でも、留学先での学生の安全のため備え(リスクマネジメント)への取り組みは、海外派遣を担当する教職員にとって避けては通れない重要な課題となっています。

自律的な危機管理体制の構築

国立大学の独立行政法人化にともない、大学にも自律的な経営が求められる時代になりました。学校経営の観点からも、研究、教育の一環である派遣留学・海外研修プログラムには、学校が自律的に取り組む危機管理体制の構築が必須です。万が一の事故の際に大学・学校はどのような対応ができるのか。自律的な危機管理への取り組みには「学校トップによる迅速な判断、危機管理対応を行う教職員への情報伝達、それに伴う教職員の役割分担の明確化」が必要となります。留学生に重大事故が発生した場合の対応(クライシスマネジメント)に備えることは学校経営における重要な課題です。

自律的な危機管理体制の構築のため、JCSOSは、「学内における危機管理意識の共有」「教職員や学生への啓蒙活動」「緊急事態に対応するシステムの導入」に重点を置き、以下のような活動を行っています。

海外危機管理セミナーの開催 学内の危機管理意識と危機対応力の向上を目的として定期的なセミナーを開催
海外危機管理シミュレーションの実施 学内の危機管理体制の検証と意識の共有・向上を目的とする取り組みを提供
海外危機管理情報の配信 各地域・エリア別の危機管理情報、医療情報、速報等を定期的に配信
JCSOS危機管理システムの提供 海外派遣において学校や渡航者を護り被害を最小限に食い止めるための管理システムの提供
安否確認システムの提供 緊急事態発生の際に渡航中の学生の安否を確認するシステムの提供
海外危機管理マニュアルの整備 海外派遣における危機管理マニュアル雛形の提供や作成のサポート
協定書・契約書・宣誓書の整備 派遣先教育機関との協定書、派遣学生との誓約書等の整備へのアドバイス
海外危機管理オリエンテーションの実施 学生に向けた、危機に対応するための備えと動機付けを目的とした渡航前オリエンテーションを実施

危機対応へ備えるための保険

ひとたび海外で重大事故が発生すると、対応処理に多額の費用が必要となります。緊急時に組織する事故対応チームが、適切な判断と素早い初動対応をする上で欠かせない要素は、必要なコスト計算とそれに対するファイナンスです。この出費を補うものが保険です。派遣留学・海外研修プログラムの危機管理に際して有効な保険を以下に挙げます。

保険 内容
学校が加入 旅行事故対策費用保険 この保険では、学校の派遣留学や海外研修プログラムにおいて、留学中の学生にケガ等の事故が発生し、学校が事故対応をした際の各種費用(教職員の現地への渡航費、滞在費、通信費、通訳手配費といった経費)を補償することができます。また、疾病危険等担保特約を付帯する場合、疾病入院、疾病死亡、自殺行為等の場合も対応費用を補償します。
【支払事例】
※JCSOSにて加入の事故対策費用保険の場合

●事故の場合:
中国にて学生が交通事故に巻き込まれ重傷を負い入院。教職員3名を現地に派遣し対応したケース
→教職員の渡航費、宿泊費、交通費、出張手当、通信費等として約83万円が支払われた。
●疾病の場合(疾病危険等担保特約付帯要):
カナダにて学生が急性腎不全を発症し緊急入院、重篤な状態となる。職員1名を現地に派遣し対応したケース
→職員の渡航費、宿泊費、交通費、出張手当、通信費等として約103万円が支払われた。
海外旅行保険
(弔慰見舞金)
法的な責任がなくても道義上の補償を求められた場合に備え、学校が任意でかける保険です。例えば、留学中の事故により学生が死亡または後遺障害を生じた場合、旅行会社を介した企画旅行での実施であれば、旅行会社は無過失責任として特別補償金を支払う責任を課せられています(1名に対し海外旅行の場合2,500万円限度)。しかし、企画旅行以外の場合は、そのような制度はなく、学校は道義上の補償にも備えなければなりません。
賠償責任保険
(施設賠償責任保険)
学校が手配・実施する留学プログラムの遂行に起因して、保険期間中に国内外で発生した対人・対物事故について、学校等が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対する保険です。
学生が加入 海外旅行保険
(留学生保険)
学生が、留学中の病気や事故に備えて加入する保険です。海外での治療費は高額になり、治療費用、救援者費用、賠償責任など、万が一に備えて補償内容が十分な保険への加入は必須です。海外旅行保険は学生(または保護者)と保険会社の契約となるため、契約や事故対応に関する個人情報は、原則として第三者である学校は共有できません。学校は学生が加入する保険について、以下のポイントに留意をする必要があります。

上記は、各保険の概要についてご紹介しており、特定の保険会社や商品名のない記載は一般的な保険商品に関するご説明です。
取扱商品、各保険の名称や補償内容は引受保険会社によって異なりますので、ご契約(団体契約の場合はご加入)にあたっては、必ず重要事項説明書や各保険のパンフレット(リーフレット)等をよくお読みください。
ご不明な点等がある場合には、JCSOSまでお問い合わせください。
※ 保険商品の詳細については、実際に契約される際に保険代理店にご確認ください。(21年3月作成 20-T06525)